「えぇか、嬢?あの男は、少しばかり複雑や。特殊な立場にあんねん。勿論、行力も格段に強い。…どや、視えるか?」

「………。」

 室内にピリピリとした緊張が張り詰めた。皆どこか脅えた様な顔で、此方を見ている。

ボクだって、こんな事はしたくない。
だけど…あぁ駄目だ、止められない。
足が勝手に進み出る。

 気が付くと。
ボクは、姫宮親子の前に歩み寄っていた。

「…《水の星》当主、姫宮庸一郎(ヒメミヤ ヨウイチロウ)さん?」

「お初に御目に掛かります、神子。」

「神子?…違うな。貴方は、まだボクを神子だとは認めていらっしゃらない。」

「───。」

「だけど、それは当然だ。貴方は一座の『智』の象徴。首座を支える立場にある。見極めを誤る訳にはゆかない…だから慎重に状況を見ている。」

「…仰有る通りです。私は、まだ貴女を信用しておりません。」

 それきり。水の当主は、沈黙してしまった。
どうやら姫宮庸一郎は、嘘と無駄口を嫌う性格の様である。

 彼の魂魄には、人為的なガードが掛けられていて、良くは見透せない。

だが。峻厳実直なその人格は、澄んだ魂魄の輝きから、自ずと感じ取れた。

「どうやら、嬢の金目には、庸一郎の壁も通じんようやな。本心が透けて視えるそうや。」

「…《水の星》だけじゃない。風と土の星も、ボクの力に疑念を抱いている。そうだろう?」