そう叫んで、頭から毛布を被ると、布一枚隔てた向こうで、二人が顔を見合わせる気配がした。

きっと呆れているのだろう。
だが、それで構わなかった。

 ボクの親父──甲本伸之は、50歳という若さで、突然この世を去った。

死因は、急性心不全。過度のストレスに因るものの様だが、何がそんなにストレスになっていたのかまでは、最後まで解らず終いだった。

ボクがいつも、あれを身に着けていたのは、どうしても親父の死を受け入れる事が出来なかったからである。

持病があった訳でも無いのに、ほんの数ヶ月でみるみる衰え、入院して間も無く亡くなってしまった親父──。この死に方は、釈然としない。

 今もありありと脳裡に浮かぶ、火葬場での情景…。
ほんのひと月前まで、在り来たりな日常を過ごしていた親父が、あっという間に真っ白な骨になって、台の上に哀れな姿を晒している。

 衝撃的な光景を前に──ボクは、自分の中の何かが壊れてゆくのを感じていた。

その時の心境を説明する事など、到底出来ない。話したところで、誰にも解っては貰えないだろう。

 ボクは、親父が好きだった。
だけど、その気持ちを上手く伝える事が出来ないまま、親父は独りで逝ってしまった。

 それが悔しくて、哀しくて…。
気が付けば、ボクは、親父の骨の一部をハンカチに包み、喪服のポケットに仕舞い込んでいた。

その行為自体に、明確な理由など無い。

『父親の骨を持ち歩く悪趣味な子供』

──どう言い訳してみたところで、ボクのした事は、それ以上でも以下でも無いのだ。