静まり返る広間。
誰も、何も語ろうとしない──そこへ。

大柄な体付きの中年男性が、すっくと立ち上がり、徐ろに口火を切った。

「仰せの通り、確かに白児ではなさそうだ。だが、ご隠居?このお嬢さんが、行も積まぬ在家のど素人である事に変わりはないでしょう。《神子》というなら、それなりの証拠を示して頂きたいものだ。」

 …『在家のど素人』。

確かに、仰せの通りだ──けれど。
そんな身も蓋も無い言い方をされると、少しばかり腹が立つ。この人は、ボクを疑っているだけではない。

 ボクを、馬鹿にしているのだ。

密かに気分を害していると、隣に座していた初老の男性も、同じ様に異を唱え始めた。

「確かに、鷹取の言う通りだ。《金の星》の当主として相応しい器であるか否かを、具体的に証明して頂かぬ事には。我等総代衆一同、その方を次代の当主と認める訳には参りませんね。」

「ふんふん…まぁ、ご尤もな意見やな。」

 鍵爺は、二人の舌鋒を飄々と躱わして含み笑いを履いた。それから、徐ろにボクを振り向いて言う。

「ほな、当主らしい處ろも御目に掛けよか。嬢。試しにその目で、この二人を視てみ?」

「え?」

 …言われて、思わず顔を上げる。
すると、鷹取と呼ばれた男性と目が合った。
《金目》で見詰められた所為か、彼は一瞬不快そうに、ピクリと太い眉を動かす。

 見るからに頭の堅そうな人だ。
筋肉質の大きな体と、浅黒い肌の色。
歳は──おっちゃんと同じくらいだろうか?

 …で??
一体、この人の何を見ろと──?

「魂を視るんや。心を澄ませ、よぅく集中してな。」

魂を『視る』?

 …何やら良く解らないが。
取り敢えず、鍵爺の指示通り、意識を集中して凝視してみる──すると。男性の胸の辺りに、ぽぅっと光る点が見えた。

更に目を凝らすと、その点が、透明な球体であると判る。

 白く強く明滅する球体──その中に。
何か、不思議な模様が書かれてあった。
文字の様な、絵の様な、記号の様な…巧みにシンボライズされた『何か』だ。

 とても意味が有るものの様には見えないが…何故だろう?そこに示される『意味』が、ボクには解る。