静かに祈っていると、枯れ枝の様な鍵爺の手が、優しく頭上に置かれた。また何事か唱えている。

良くは、聞き取れなかったが──それは、とても複雑で長いものだった。

 暫くぶつぶつと口を動かした後、老人の掌にポウ…と熱が籠る。すると頭の天辺が、ほんのり温かくなった。

「これで、えぇやろ。嬢、目ぇ開けてみ。ゆっくり、ゆっくり…やで。」

 ゆっくり、ゆっくり…ボクは目を開けた。最初は白く霞が掛かっていた視界も、やがてピタリと焦点が合う。

 次の瞬間──。
広間から、どよめきの声が挙がった。

「おぉ…!」
「何だ、あれは?」
「金目だ!!」
「あれが神子の目か!?」

 騒ぎ立てる声、声、声──。
皆、何をそんなに驚いているのだろう?

『金目』?

 下座に視線を移すと、一慶が、祐介が苺が遥が…複雑な表情でボクを見ていた。

「何…どうしたの!?どうして、みんな騒いでいるの?」

 周囲の反応に、ボクは戸惑った。

鍵爺が、懐から小さな手鏡を取り出して、『ほい』と手渡してくれる。恐る恐る覗き込むと──

「え…ボク、目が!」

 瞳が、いつもと違っていた。

気味が悪い。
自分じゃないみたいだ!

「これ…本当にボクの目?」

「解ったか、嬢?数十年──否。場合に依っては、数百年に一度だけ《金の星》の一族に現れるという──それが、神子の証や。」

「神子の証…これが??」

 …それは、我ながら不気味な光景だった。
瞳が透明になっている。

青味掛かった白眼の中心に、忽然と浮かぶ透明な水晶体は、角度を変えると、眼底が金色に光って見えた。

皆が座っている位置からは、《金目》の様に見えたのだろう。驚くのも無理はない。

 鍵爺は、ボクを見てニンマリ笑った。
それから参集した人々を振り返り──

「さて、御一同!これで、お解りやろ?伸之の忘れ形見は、正真正銘ホンマもんの神子や!金色に光る瞳が、その証。白児(ハク)であろう筈がない!!」

 自信満々に、そう言い放った。