着物の懐から、人形に切り抜いた紙の札を一枚取り出す…そうして。ボクの頬に流れている血を、それに染み込ませた。

 真っ白な紙人形に、真っ赤な血の染みが拡がる。綺麗な澄んだ赤色だ。

これを、何に使うのだろう?

 すると。
鍵爺は、ボクの不安を見透かした様に、クシャリと笑って言った。

「これはな、嬢の身代わり人形や。」
「身代わり人形…?」
「せや。よう見とき。」

 皺くちゃの右指を絡めて、印を結ぶと…鍵爺は、身代わり人形に向かって、何やら唱え始めた。

「帰命頂来(キミョウチョウライ)。慎しみ敬って、遍(アマネ)く如来の御徳に礼拝(ライハイ)す。破邪顕正(ハジャケンセイ)の真(マコト)を以(モッ)て、如来(ニョライ)の仏意を明かすべし。」

 一通り唱え終わると…。
鍵爺は、紙人形の『目』に相当する部分を、人差し指の先でツイと撫でた。

その刹那、スゥ…と体が軽くなる。
両目の痛みも、嘘の様に治まった。

「そら。目の封印が外れた。次は耳や。」

 そう言って、同じ動作を繰り返す鍵爺。
今度は紙人形の『両耳』部分を、人差し指でチョンチョンと弾く──すると。

ボクの耳の奥で、リーンと微かな金属音が聞こえた。

「ほれほれ、耳の『鍵』も開いた。最後は『手』やな。」

 老人の指先が、人形の手をサッと撫でる。