祐介が渾身の力で掛けた《霊縛術》──それが、いともアッサリと外されてしまった。

「次は、目と耳や。」

 白濁した目を不敵に眇める鍵爺。
笑っているのは口元だけだ。
白内障の瞳は、虚ろに宙をさ迷っている。

「開眼(カイゲン)やで、嬢。今からホンマもんの『目』に、したるさかいな?」

「本物の…目?」

「…そうや、天眼(テンゲン)云うてな。行者には、行者の目が必要なんや。肉眼と違て、これがまたよう~見えんねん。世の中の裏の裏まで見透せんで?」

 愉快そうに言って笑うと…鍵爺は、ボクの顔の前に両手を翳した。左右の親指と人差し指の先をピタリと付けて輪を作り、また何やら唱え始める。

「オン、アボキャ、ベイロシャノウ、マニ、ハンドマ、ジンパラ、ハラパリタヤ、吽。オン、アボキャ、ベイロシャノウ…」

 何度も何度も唱え続ける、鍵爺──。
その内。ボクの目にチカチカと、小さな光が飛び交い始めた。

「っ…!」

『目』が熱い。
熱くて、痛い。

眼球の裏側から頭蓋骨に掛けてが、万力で締められる様にミシミシと圧迫される。眼窩《がんか》に直接指を差し込まれ、中身を掻き回されている様だ。

痛い──そして、熱い。

 どうにも耐えられなくなって、ボクは両目を手で押さえた。そうしていないと、眼窩から目玉が飛び出しそうだった。

 痛みが限界に達した──その時。

鍵爺は突然、唱えるのを辞めてしまった。結んだ印を解いて舌打ちする。

「…ふん。この修法では外れんか。なんとまぁ強情な《鍵》や。結び目が魂魄に入り込んで、ややこしい事になっとる。伸之の奴め…けったいな封印施しおってからに。」