鍵爺は、皺くちゃの顔をますます皺くちゃに綻ばせて、広間を見渡した。

「ほんで、本題に入るわけやが…その前に。皆に、見て貰いたいもんがある。」

 そう言うと──鍵爺は、含みのある笑みを口元に張り付けてボクを見た。

「先ずは、この子が《神子》やっちゅう事を証明したるわ。」

 ──え? いきなり!?
その場に居た全員が、一斉に息を飲む気配がした。

何をするつもりだろう…?
無意識に身を強張らせていると、鍵爺は、クイと顎をしゃくって素っ気無く命じた。

「嬢、あっこに座り。」

 そう言って、顎先で上座を示す。
また《口寄せ》を使ったのだろうか?
ボクは逆らう気力も削がれて、その指示に従っていた。

 言われた通りに壇を上がって、錦の座布団の上に座る。

すると…ボクの向かい側に小さな座椅子が置かれ、そこに鍵爺が、ちょこんと座った。目線こそ違うが、ちょうど向かい合わせになる。

…何やら、妙な気分だ。

「全く…伸之の奴め。娘の魂魄に、十重二十重(トエハタエ)と《封印》を施して逝きよった。先ずは、これを外さな…嬢が、本来の力を出されへんやないかぃ。難儀なこっちゃ。」

 ぶつぶつと悪態を吐くと、老人はボクの顔の前に片手を翳して言う。

「…ふむ。封印を解く前に、もう一仕事や。嬢は、誰ぞに霊縛されとるな?」

「え?」

「ほぅ。付け焼き刃にしちゃ、丹念に法力を編み込んどる。こういう丁寧な仕事をするんは…」

鍵爺は、人形の様に首だけを回して下座を振り返った。

「祐介、お前やな?」
「はい。」

 短い問い掛けに、祐介は淡々と答える。

「えぇ腕前や。祐介は霊縛の達人やな。」

 鍵爺は機嫌良く笑ったが…相変わらず、その真意は掴めなかった。もしかしたら『余計な事をした』と、怒っているのかも知れない。

「そしたら、先ずは霊縛を外そか。」

 鍵爺は、節くれだった指を複雑に絡めて印を切った。口の中で何事か唱え、最後に、ボクの顔の前でパチン!パチン!と指を鳴らす。

 その途端。ふわりと生暖かい風が、頬の上を撫でた。

「…ほい、外れたで。」

 外れた?
祐介の霊縛が外れた──こんなに簡単に??