「儂は、実の祖父やで?殺す気かいな。明王咒を、生身の人間に向かって放つアホが、何処におんねん?」

 ──その言葉に。

遥の唇が『此処に一人おるゎ、ボケ!』とハッキリ動いた。剣呑に目を眇《スガ》めている。

 片や。一頻り孫に文句を言った老人は、満足したのか、以降は取り分け気を害した風もなく、すりすりと手を揉みながら独りごちた。

「よしよし。皆、揃ったな。」

上機嫌で頷くや、クルリと振り向いてボクを見る。

「お前が薙か?」
「……………………はい。」

「なんや、今の『間』は?」

 老人は不服そうに、唇を尖らせる。
まるで子供みたいな仕草だ。

何者なのだろうか、この爺さんは?
巫山戯(フザケ)ているのか、天然なのか。
憑々としていて、掴みどころが無い。

からかわれている様な気もするし、大真面目なようでもある。口許に履《ハ》いた笑みが、少しばかり不気味だ。

「薙、お前と『実際に』見(マミ)えたんは、今日が初めてや。そない厭(イヤ)そうな顔せんで、な?」

 そう言うと。
老人は、皺枯れた手を閃かせた。

『おいで』と唇が動き──。
ボクは、誘われる様に立ち上がる。