「支度は出来た?」

 聞き覚えのある声がして振り向くと、部屋の戸を半分だけ開けて、遥がヒョイと顔を覗かせた。 途端に、息を飲む気配がする。

「凄いっ!綺麗だよ、薙!!」

 ──大絶賛されてしまった。
『アタシの見立てがいいからよ!』と、隣で苺が威張っている。遥は、そんな彼女をスルーして鏡越しにボクを眺めた。

 それから全体を確認する様に見回して、ボクの髪を指先でサラサラ掻き分ける。

「少し、メイクしようか?」
「え?」

「薙は色白だから、群青色を着ると顔色が悪く見えるんだ。況してや今は、貧血気味と来てる。嫡子候補が病弱に見えちゃうのは不味いからね。」

「そうなの?」

「そ!こういう時は、ハッタリ利かせないと。…そうだな。綺麗な肌を生かして、敢えてファンデは使わずに、軽くパウダーを叩くだけにして…口紅は、暖色系の赤かな?グロスは和服に合わないから、マットな質感に仕上げよう。」

 ……えーと。何だか良く解らないけれど。
ニコニコしている遥を見ていたら、断る事も出来なくて──ボクは思わず頷いていた。

「遥に、任せるよ…」

 遥がボクの顔を弄っている間、苺は退屈そうに窓の外を眺めていた。