「これも苺がデザインしたの?」

「違うわ、伸ちゃんよ。昨夜、見たんでしょう?あの部屋。」

「うん…」

「アタシが、あの絵をパターンに起こして、職人に作らせたの。この世に一点しかないプレミアもんよ!」

 苺は、エヘンと肩を聳やかした。

「わざわざ、ボクの為に?」

「勿論そうよ?当然じゃない。世界広しと云えど、これを着るのは薙しかいないもの。誰が何を言って来ようと、全然気にする事なんかない。アンタが伸ちゃんの娘だって事に変わりはないんだから。薙はね、上座に座って、ふんぞり返ってりゃいーのよ。」

 …苺らしい励まし方だった。
そんな彼女を見ていたら、以前、一慶に言われた言葉を思い出した。

──『楽しめよ』。

そうだ。
この状況を楽しんで来よう。
そう考えたら、少しだけ気が楽になった。

 姿見に映る『自分』は、群青色に溶けてしまいそうに、柔で頼りなかったけれど…