午前九時半を回った頃──。
俄かに外が騒がしくなった。
車のドアがバタン!と閉じる音が、ひっきりなしに聞こえる。

「…いっぱい来るね。」
「そうね。薙、こっち持って。」

ボクの言葉を軽くあしらうと、苺が腰紐の片端を手渡した。

 苺は今、ボクに『とっておき』を着付けている。
紐やら肌着やら…その他いろいろな小物が、部屋中に散乱していて──。何をどう使うのか、ボクには、さっぱり解らない。

 和服なんてものは今まで着た試しが無かったから、全て苺任せだ。『紐の端を持て』と言われれば持つし、『足袋を履け』と言われれば履く。

とにかく言われるがまま、されるがままだ。

シュッ。
シュ、シュルル。

 絹擦れの音が、静かな部屋に響く…と。不意に苺が、腰に巻いた紐をぎゅうぎゅう締め付けた。凄い力だ。体がぐらつく。

「うげっ。苦しいよ、苺。」
「煩いな、ジッとしてなさい!」
「…はい。」

 ボクが何を言ったところで、この『お姉さん』には敵わない。

「んもぉ、細いっ!薙は、も少し太りなさいね!! 着物がサマにならないじゃない!」

 そんな事を言われても、困る。
ボクのこれは、云わば生まれついての体質だ。