「薙、朝食が済んだら着替えるわよ?」
企む様な眼差しで、苺がいう。
「今日は特別な日だからね。とっておきの着物を用意してあるのよ。」
「とっておき?」
言葉を反復すると、苺はニッコリ微笑んだ。
「きっと似合うわ。だって苺が選んだんだもん。」
──居間には既に、見慣れた面々が勢揃いしていた。
今日は、おっちゃんも居る。
「おはよう。」
ボクが挨拶をすると、真っ先に遥が『おはよう』と返した。…いつもの笑顔で。
おっちゃんは、やや複雑な面持ちでボクを眺めて、『おぅ』と手を挙げる。祐介は軽く微笑んで、視線を合わせただけだった。
一慶の隣が空いていたので、迷わず座る。
「…昨夜は、ありがとう。」
小声でそう言うと、彼はボクを一瞥し、無愛想に訊ねた。
「良く眠れたみたいだな。」
「うん。一慶のお陰だよ。」
『ふぅん』と顎を聳(ソビ)やかし、初めて一慶が此方を向く。
「ちゃんと食っとけよ。今日は長丁場だからな。」
「うん。」
間も無く朝の膳が運ばれ、静かな…でも和やかな朝食が始まった。