その夜見た夢は、印象的だった。

星空の中──
煌めく翼を翻し、銀の鳳凰が優雅に飛び回っていた。
辺りには金色の光の粒が舞い散り、美しい残像を投げている。

 あの壁一面に描かれた力強い筆の跡が、まだ生々しく記憶に残っていて…

『薙さま、おはようございます。お目覚めですか?』

氷見の柔らかい声が、インターホンから聞こえる。

 運命の朝。
既に身支度を終えていたボクは、余裕を持ってその問掛けに答える事が出来た。

「起きてるよ。おはよう。」
『朝食の支度が調いました。居間へお越し下さい』

「はい。」

 何故だろう──?
我ながら冷静だ。気持ちがシンと落ち着いている。

昨夜、一慶にあの部屋を見せて貰ってから、ボクの中の何かが変わった気がする。親父と同じ気持ちを、時空を越えて共有出来た所為かも知れない。

 誰しも迷いや悩みはある。
親父だって、最初から完璧だった訳じゃない。
ボクの気持ちは、もう決まっていた──迷いは、無い。

 部屋を出ると、そこに苺が立っていた。

「おはよう、苺。」
「おはよう。」

苺はボクを見るなり、含みのある笑みを浮かべた。

彼女は、《天解の行者》──。
きっともうボクの決意を覚っている。