ぼんやり壁を見上げるボクの頭を、一慶がクシャリと撫でた。

「いよいよ明日だな。」
「うん。」

 明日──総代衆による嫡子審議会が行われる。
自分の意志と、総代による審査結果とが公けになる。

 もし、両者の意見が一致しなかったら…ボクは、どうなってしまうのだろうか?この絵を描いた時の親父と、全く同じシチュエーションだ。親父も、決して自ら望んで当主になったのではない。

「…だから、ボクにコレを見せたの?」

「まぁな。お前も、東の対に興味がある様だったし。親父に頼んで、特別に開けて貰った。」

「そう…ありがとう、一慶。」

 一慶はボクに微笑を返すと、ゆっくり壁の絵を見上げて言った。

「お前にこの絵を見せたかったのは、もう一つ理由がある。」

「??どんな理由?」
「伸さんが、そう望んでいる。」
「そう思う?」
「あぁ。勝手な憶測だがな。」

 怱々たる総代衆面々を前に、親父は自分の意思を、どう伝えたのだろうか…そして。どういう心境で、当主を…首座を、引き受ける決意をしたのだろうか?

「それは明日になれば分かるさ。」

 一慶は言う。

「もう気持ちは決まったのか?」
「…多分。」
「何だよ、多分って。」

 額をツンと小突かれる。だが、今はまだ秘密にして措きたかった。心が定まったら、真っ先に相談しろと言われていたのに。

 だがそれは、彼等を信頼してないからじゃない。
むしろ、その逆で──

「戻るぞ、薙。」
「うん…。」

 背中をポンと叩かれて…ボクは後ろ髪を引かれながら、その部屋を後にした。