「だからって…ここまでする?」

 ボクは大いに呆れた。
柱も壁も…天井の方まで、ベッタリと絵の具が塗られている。

「それ程、嫌だったんだろうな。街中に落書きしている若い奴らと、同じ感覚なんじゃないか?」

 一慶は、快活に笑った。

「伸さんが当主に任命されたのは、十九歳の夏だったそうだ。」

「十九歳!?」
「今のお前と同じだな。」
「…うん。」

 十九歳の親父が、この部屋にいる。
そして、ボクと同じ戸惑いを感じている。…そう考えたら、何故だか胸が一杯になった。

 親父が、どんな想いでこの絵を描いたのか、今なら解る。無意識に手を延べ、壁に触れた──当(マサ)に、その時だった。

バチン!

「痛っ!!」

 指先に、静電気の様な衝撃が走って思わず手を引っ込める。

 其処へ。
背後から一慶が近付いて来て、興味深そうにボクの掌を覗き込んだ。

「へぇ…。巧く効いている様だな、祐介の霊縛は。」

 霊縛…。そうだった。
そんな術を掛けて貰っていたのだった。
一眠りして、すっかり忘れていた。

 でも、何故この絵に触ると弾かれてしまうのだろう?
不思議な気持ちで掌を眺めていると、一慶が何気無い口振りで教えてくれた。

「伸さんの絵には、何か霊的な仕掛けがしてあるらしい。誰が触れても、そうなる。多分…お前の霊縛が解ければ、状況は変わってくるだろう。」

「そう…。」

 それを訊いて、少しだけガッカリした。
《霊縛法》とはつまり、霊的なもの全てを避ける術なのだ。

それにしても、『仕掛け』とは何だろう?
親父は、この絵に何を託したのだろう?

 羽ばたく《銀の鳥》──。
これは一体、何を意味しているのか??