それは、広間の隣に設けられた、小さな書斎だった。

窓の無い、四畳半。

その片隅に、漆黒の文机がポツンと置かれている以外は、何も無い。だが──辺りをグルリと見回してみて、思わず息を飲んだ。

三方を囲む壁という壁に、不思議な絵が描かれている。

大胆な構図と、独特な色使い。
絵の具を、絵筆で叩き付けた様な荒々しいタッチ。

何処かで見た事がある、特徴的なこの画風は、まさか──?

「親父の絵?」
「正解。凄いだろう??」

 一慶は、部屋をグルリと見渡しながら言った。

…確かに凄い。
壁一面に青の濃淡で描かれた星空。

そこに、銀色の鳳(オオトリ)が、金の粉を巻き散らしながら、大きく翼を広げて飛翔している。

 青と金と銀…。
三色しか無い、異様な空間だ。
まるで、夜の真ん中に独り、放り出された様な気分になる。

成程、解ったぞ。
祐介が『面白い』と言っていたのは、この壁画の事だったのか…。

「甲本伸之画伯、渾身の作だ。タイトルは『若気の至り』とでもしておくか。」

「…何、それ?」

「総代の審議を受ける前日に、徹夜で描いたんだそうだ。」

「どうして?」

「当主になるのが嫌だったらしい。言わば反抗の証だろうな。」