それから、少し遠回りをして──漸く、指示された場所に辿り着く。

──見れば、閉ざされていた東の対屋への板戸が外されている。キッチリ閉められていた筈の雨戸も、全て開け放たれていた。

「薙、こっちだ!」

 東の対の一室から、一慶がヒョイと顔を出す。呼ばれた方に向かって、ボクはソロソロと歩を進めた。

──と突然。
足元の板が、キュッキュッと軋む。

驚いた…此処も鴬張りになっているのか。
敵の侵入を知らせる為の、古い工法──。
東の対の廊下は、何処もかしこも鴬張りになっている様だ。

 廊下のアチコチを踏み締めて、音が鳴るのを確かめていた…その時。頭上に、呆れ果てた様な声が降ってきた。

「…何やってんの、お前?」
「これ面白いね。鴬張り?」

「そうだよ、珍しいのか?」
「うん、面白い。」

「後で好きなだけ遊んで良いから…。とにかく中に入れよ。日が暮れちまう。」

 乱暴な言葉とは裏腹に、一慶は悪戯を秘めた眼差しで、クイと顎をしゃくった。

 …何だろう?

少しだけワクワクしながら、ボクは、その部屋に足を踏み入れる。