そこへ到る前に、件のトラブルに巻き込まれ、何故か一文無しになってしまった。そうして、土地勘の無い街を彷徨(ウロツ)く内に、すっかり方向が解らなくなってしまったのである。

全てが、不幸な事故だった。
そうとしか言いようが無い。

 一方、彼等は彼等で難儀していた。
約束の時間が過ぎても現れないボクを探して、街中を奔走していた様である。

 ──知っていたのは『甲本薙』という名前だけ。

当然、ボクの顔も知らない。そんな相手を、どうやって捜し出し、本人であると確認したのか訊ねたところ──例の、《読心》という答えが返って来た。

 これがまた、謎である。
甲本家の人間には、何か特異な能力があるのだろうか?

彼等は、《魂》に刻まれた情報を読む事で、その人の本質が『判る』のだそうだ。

熟練すれば、テリトリー内に紛れ込んだ目標物の気配を、即座に探知する事も可能だと云う。

 そして、その言葉通り──。
彼等は、迷子のボクを見付けてくれた。
ところが当の本人は、フラフラと覚束無い足取りで、幽霊の様に通りをさ迷っている。

尋常でないその様子に異変を感じ、声を掛けようとしたところで、ボクがバッタリ倒れてしまったというわけである。

 ついでに、もうひとつの謎も解けた。
先程の医師も、やはり甲本家の親族だった。