「つまりボクが、彼女の命を終わらせてしまったんだね…。」

 ポツリと呟くと、氷見と祐介が一斉に此方を見た。

「薙さま、それは」

「うん、解ってる。それは、彼女の一番の願いだった。奈津美ちゃんの心に触れてみて、良く解ったよ。だけど…」

「まさか、自分が引導を渡すとは思わなかった──?」

 祐介の言葉に、ボクは無言で頷いた。
人の死に立ち会う事はあっても、直接それに関わる事など今まで無かった。

──考えもしなかったのだ。
死者に、意志があるなんて。

 込み上げる感情をグッと飲み下しながら、ボクは訊ねる。

「ボクが見た『あの子』は一体、誰だったんだろうね?」

 奈津美の体を抱き起こした時の感触が、まだこの手に残っている。

軽かった。
熱も感じなかった。

只、訴え掛ける様な瞳の残像だけが、『高原奈津美』という少女の印象となって、まだ胸に焼き付いている。

「キミに接触したのは生霊…又は、幽体と呼ばれる状態の霊魂だ。僕ら六星行者は、生死に関係無く《魂魄》と呼んでいる。」

 魂魄──こんぱく。

不思議な言葉だ。
生きている者にも、死んでしまった者にも宿っている命の種子…又は『核』の様なもの。

「あれは、高原奈津美の魂魄が作り出した幻影だよ。二人は、出会った瞬間にシンクロした。…その時からキミは、彼女を実体として感じる事が出来る様になったんだ。こんな事…勿論、誰にでも出来るってもんじゃない。」

「…でも、今はもう感じない。」
「亡くなったからね。」

 あれほど強い気を放っていたものが、亡くなった途端、ふっつり消えて辿れなくなる。

『死』とは──こういう事なのだ。