「えぇ。それを慕って、沢山の霊が集まって来ている…。だから祐介さまが、貴女の力を体内に封じ込めたのです。これで暫くは、浮遊霊や地縛霊の類いに、たぶらかされる事もありません。」

 ──そう言うと。氷見はブランケットを、肩まで掛けてくれた。状況は解ったが、俄(ニワカ)かには信じ難い。

何やら、夢でも見ている様な気分だ。
この僅かな時間の中で、そんな事が起きていたなんて…。

 まだ何処か現実感が無くてボーッとしていると、祐介が、覚醒を促す様にパチンと指を鳴らした。

 途端に、キンと耳鳴りがする。
これは《結界》が解けた証しだと…以前、彼が言っていたっけ。

「確かに術は、成就した。だけどこれは、単なる応急処置に過ぎない。油断しちゃいけないよ。」

 両袖のボタンを留めながら、少し早口で祐介が言う。

「今は、霊的な囲いを掛けて、キミの匂いを消しただけだ。これで暫くは霊障を防げるが…暫定的な術だから、然程(サホド)の効力は無い。放って措けば、いずれは解けてしまうだろう。…本当はキミ自身が、自分の意思で、力をコントロールするのが理想的なんだ。」

「そんな…無理言わないでくれる?」

 ボクは行者ではない。
ズブの素人だ。

あんな風に器用に指を動かせる筈も無いし、第一、何が起きていたのか全く解らなかったのだ。

 恨みがましく見上げると、祐介は「やれやれ」と云う様に肩を竦めた。