無音の病室は、まるで現実世界から切り取られた様だった。

「薙、静かに眼を開けて。僕の眼を見て。」
「…うん。」

「僕がこれからする事で、キミの魂魄に変化が生じる。多少の苦痛も感じるだろう。耐えられない程キツかったら、正直に言って。出来る限り、力を加減する。」

 そう言うと、祐介は印契を結んだ。厳かな詠唱の声だけが、病室に響き渡る。そして──

「臨兵闘者、皆陣列在前。」

 ──あぁ。これは《九字》だ。
今朝ほど遥も見せてくれた、邪霊を払う修法(スホウ)のひとつ──だけど、印の形が少し違う。

 祐介は複雑に指を絡めて、次々に印を結んでいった。最後に、上向けた左の掌を、右手の拳でポンと叩く。

 何をしているのか、意味は解らない。
だけど、器用に動く長い指に思わず見蕩れてしまう。

 興味深く見詰める、その前で──。

祐介はまた違う印を結び、祈りを込めた。
今度は、より気迫の籠もる声で高らかに唱える。

「悪霊妖気退散!」

刹那。ボクの眉間が、ビリリと痺れた。

「痛──っ!」

 思わず声が洩れたが、祐介は、別段気にする風もなく所作を続けている。

凄い集中力だ。
邪魔をしてはいけない気がする。