それから程無く。

白衣に身を包んだ祐介が、氷見を伴って病室に現れた。…少し不機嫌な顔をしているのは、ボクがまた余計な仕事を、増やしちゃった所為なのだろう。

 こっぴどく叱られるのかと思うと、つい顔を伏せてしまう。

「薙。」

 来た──!

怖い。物凄く怒っている。
ボクは、亀の様に首を竦めて、雷が落ちるのを待った。だが、祐介は…

まるで深呼吸でもするみたいに深く息を吸うと、出掛かった言葉諸とも、大きな溜め息に変えて、「はぁ」と吐き出した。

冷静さを保つ様に、眼鏡のブリッジを押し上げてから、ボクの枕元に腰掛ける。

「キミが悪いんじゃない。ただ其処に居ただけだ。それは、僕も良く解っている…否。解っていたつもりだった。」

「う、うん…?」
「だけど。これは、ちょっと酷いね。」
「──ぅ。」

 『酷い』…か。
まあ、それもそうだ。

行きずりの人に、あっさり体を乗っ取られるなんて、確かに酷い話に違いない。

「ボク、またやらかしちゃった?」

 面目無い思いで、上目遣いに祐介を盗み見れば…彼は、眼鏡を外して、疲れた様に眉間を押さえていた。

「…いいよ、解った。少し体に負担が掛るかも知れないけれど、今此処で封じてしまおう。」

「封じる?? 何を?」
「キミを《霊縛》する。」
「れいばく…」

「今のまま、キミの力を無防備に放出して措くのは危険だという事さ。今みたいに、無関係な《霊》をドンドン引き寄せてしまう。少しの間、キミの力を封じて措くよ。氷見──手伝ってくれ。」

 『はい』と返事をすると、氷見は直ぐ様行動を始めた。