品の良い身のこなしも、包容力を感じさせる言動も、兄というより、父親のイメージに近かった。

 穏やかなその顔を、まじまじと見詰めていると…

「あの、薙さま。」
「ん?」

「老婆心ついでに、一言申し上げても宜しいでしょうか?」

「え、あ…うん。」

「この様な至近距離で、一心に男性を凝視なさるのは、あまり感心致しません。無防備にも程がございます。私が薙さまの父親でなくとも、心配になってしまいます。どうか極力お控え下さいませ。」

「見ちゃいけないの??」
「時と場合と、人に依ります。」
「ふぅん?」

「…世の中には、若い女性に潤んだ眼差しで見詰められただけで、派手に勘違いをする大馬鹿野郎もおりますので。お気を付け下さい。」

「うん…解った。」

 氷見の神妙な雰囲気に圧されて、思わず返事をしてみたものの…結局何が言いたいのか、さっぱり解らない。

腑に落ちないまま口を噤(ツグ)むと、氷見は、やおら話を切り上げる様に立ち上がった。

「私は外来病棟に行って参ります。すぐに戻りますので、大人しくなさっていて下さいね?」