そんな真顔で言われたら、到底逆らえない。ボクは大人しくベッドに体を預けた。

氷見は空かさず、毛布を肩まで掛け直す。
甲斐甲斐しく世話を焼くその横顔が、ふと誰かに似ていると感じた。

いつも直ぐ傍で見ていた、あの横顔に──

「…氷見。」

 ボクは、朝からずっと感じていた印象を口にした。

「あのさ、氷見って…」
「はい?」
「何だか『お父さん』みたいだね。」
「────え?」

 …あれ?
どうしたのだろう??
氷見が突然、固まってしまった。
優しい微笑みが、亀裂の入ったガラス板の様に、ピシピシと皸割れてゆく。

 …流石に、まずかっただろうか、『お父さん』は。

「あの、薙さま…?」
「はい。」

氷見は、引き攣った笑みを口元に張り付かせて向き直った。何かを必死に堪えている様にも、見える。

「その…誠に光栄な御言葉なのですが…『お父さん』は、ちょっと…。せめて『お兄さん』くらいにしては頂けませんでしょうか?私、未だ二十八歳なので…。」

 あぁ、そうか。
傷付いちゃったんだ…。

「ごめん」と謝ると、氷見は何処か諦め顔で、ふるふると頭を振った。

 この落ち着きで、二十八歳…。
物静かで思慮深い印象のある氷見は、実年齢より少しだけ歳上に見える。