『助けて!』
『助けて!』
『助けて!』…
体の内側から響き渡る絶叫は、全て奈津美が感じている『痛み』だった。
ずっと前に逝く筈だった命──それを。
無理に引き留め、生かされている苦しみ。
奈津美は、震える指で枕元の機械を差し示す。
「あれを外して…ママ!」
「駄目よ、なっちゃん!あれを外したら、あなたは死んじゃうのよ!?」
『人工呼吸器』──
奈津美の魂を繋ぎ留め、動かし、肉体に結び付けている機械。
少女の願いは唯一つ、魂の解放だった。
奈津美は、既に自らの死を受け入れ、彼岸へ籍を移そうとしている。
…なのに。機械に繋がれている所為で、それも叶わず、あの世とこの世の狭間に留まっているのだ。
そうしてもう百日以上も、宙宇の闇を彷徨している。それが、どんなに辛く苦しい事なのか…ボクは、身を以て思い知らされた。
「お願い、ママ…」
必死に訴える奈津美。
焼ける様な胸の痛みと共に、彼女の記憶が流れ込んでくる。
…そこには、擦れ違う母娘の願いと葛藤があった。
「駄目よ、なっちゃん。これは外せないの!」
奈津美の母は、人工呼吸器を背に庇う様にして立っている。激しく首を振り、『駄目、駄目』と呪文の様に繰り返す。
生死を巡って対立する母と娘。
親は娘に『生存』を願い、娘は親に『安楽』を乞うていた。
この構図には見覚えがある。
…ボクが、親父にしていた事と同じだ。
奈津美の痛みは、そのまま親父の痛みだったのだ。
逝くべき場所へも逝けず、家族の想いに縛られて、ただ漠然と世に留まっている。
終わり無き孤独と絶望。
引き裂かれる様な痛みの中で、ボクは徐々に消耗していった。
…あぁ。もう限界だ。
これ以上は、ボクの魂が耐えられない。
このまま体から引き離されてしまいそう。
助けて────誰か!
その時だった。
耳慣れた声が、この場の空気を変えたのは。
「薙さま!」
『助けて!』
『助けて!』…
体の内側から響き渡る絶叫は、全て奈津美が感じている『痛み』だった。
ずっと前に逝く筈だった命──それを。
無理に引き留め、生かされている苦しみ。
奈津美は、震える指で枕元の機械を差し示す。
「あれを外して…ママ!」
「駄目よ、なっちゃん!あれを外したら、あなたは死んじゃうのよ!?」
『人工呼吸器』──
奈津美の魂を繋ぎ留め、動かし、肉体に結び付けている機械。
少女の願いは唯一つ、魂の解放だった。
奈津美は、既に自らの死を受け入れ、彼岸へ籍を移そうとしている。
…なのに。機械に繋がれている所為で、それも叶わず、あの世とこの世の狭間に留まっているのだ。
そうしてもう百日以上も、宙宇の闇を彷徨している。それが、どんなに辛く苦しい事なのか…ボクは、身を以て思い知らされた。
「お願い、ママ…」
必死に訴える奈津美。
焼ける様な胸の痛みと共に、彼女の記憶が流れ込んでくる。
…そこには、擦れ違う母娘の願いと葛藤があった。
「駄目よ、なっちゃん。これは外せないの!」
奈津美の母は、人工呼吸器を背に庇う様にして立っている。激しく首を振り、『駄目、駄目』と呪文の様に繰り返す。
生死を巡って対立する母と娘。
親は娘に『生存』を願い、娘は親に『安楽』を乞うていた。
この構図には見覚えがある。
…ボクが、親父にしていた事と同じだ。
奈津美の痛みは、そのまま親父の痛みだったのだ。
逝くべき場所へも逝けず、家族の想いに縛られて、ただ漠然と世に留まっている。
終わり無き孤独と絶望。
引き裂かれる様な痛みの中で、ボクは徐々に消耗していった。
…あぁ。もう限界だ。
これ以上は、ボクの魂が耐えられない。
このまま体から引き離されてしまいそう。
助けて────誰か!
その時だった。
耳慣れた声が、この場の空気を変えたのは。
「薙さま!」