「もう良いかな?」
「…え?」

 独り悶々と物思いに耽っていると、呆れた様に訊ねられた。

「他に質問は無い?あぁ、個人的なものは受け付けないよ。帰ってからにして。」

 そんな風に言われたら、『無い』と答えるしかない。

「じゃあ、後は帰ってからにする。」

 仕方無くそう答えると、祐介は今日初めての優雅な笑みを見せた。

「じゃあね、気を付けて帰って。」
「うん。」
「お大事に。」

 廊下に出ると、待合室には、未だ大勢の患者が順番を待っていた。

この人達一人一人の背後に──
居るのだろうか、因縁霊とやらが?
………

想像したら、またゾワリと悪感が走った。
逃げる様にその場を離れて、早足でロビーへ向かう。

 氷見が待っている筈だ。
一刻も早く彼と合流して、とにかく安心したかった。

 急いで廊下を曲がった──その時。
焦って前を良く見ていなかったボクは、出合い頭に小柄な女の子と打つかってしまった。

『きゃ!』と小さな悲鳴がして、女の子がよろける。ボクは咄嗟に手を延べて、彼女の体を支えた。

「ごめんなさい!大丈夫?」

 そう言って、華奢な体を助け起こすと…女の子は、ボクを見て、ハッと息を飲み、そのまま固まってしまった。

 ──中学生くらいだろうか?
雰囲気が、少し篝に似ている気がする…。
床に座り込んだ彼女の背に両手を添えて、ボクは彼女を抱き起こした。

  …軽い。
まるで羽根の様だ。

肩まで伸ばした栗色の髪から、フワリと消毒薬の香りがする。