無事に朝食を済ませた後──。

ボクは、氷見に伴われて、市内の一等地に在る『坂井総合病院』に向かった。

 その車中。氷見は、わざわざ遠回りをして、市街を案内をしてくれた。予定より少し早目に出発したのは、ボクに街の様子を見せてくれる為だったのだ。

氷見は、いつだってボクに優しい。
お陰で束の間のドライブ気分が味わえる。

 …だけど。車窓から眺める街は、何処かよそよそしく他人行儀だった。

見慣れない街──
見慣れない建物──
新鮮と云うより、寧ろ違和感を覚える。

『本来、お前が居るべき場所ではない』…と。そんな街の呟きが、何処からか聞こえて来るようだ。

まるで異邦人にでもなった様な疎外感…
焦燥にも似た、奇妙な孤独を覚える。

 やがて車は、滑るように院内の地下駐車場に入って行った。キッとフット・ブレーキを踏む音がして、エンジンが停止する。

「着きましたよ、薙さま。」

肩越しに振り返る氷見は、いつにも増して堅苦しい印象を受けた。真っ黒なスーツの所為かも知れない。

インナーにピンストライプのボタンダウンのシャツを合わせて、カジュアルに着熟してはいるけれど…。

 どう工夫を凝らしても、武骨なSPの様にしか見えない。生来の生真面目さが、逆に悪目立ちしてしまう…。

「…ふふ。」

 堪えきれず噴き出したら、氷見は怪訝に小首を傾げてボクを見た。

「如何なさいました、薙さま?」
「何でもない。行って来るね。」

「はい。私はロビーでお待ちしております。御用の際はお呼び下さい。」

 穏やかなその笑顔に、コクリと一つ頷いて、ボクは車を降りた。真面目で几帳面で、気が利いていて、誰よりも優しい氷見──

こうして傍に居て貰えるだけで安心出来る、ボクの心強い味方だ。