「それにしても。普通、ここまでするものかな?自分の孫を虐めて愉しんでない??」

「薙…」

憤慨するボクに、遥は突然、大きな瞳を潤ませて抱き付いてきた。

「解ってくれる!?あの爺、か弱い俺を虐めて、遊んでいるんだよ~!」

…あぁ、はいはい。

可哀想、可哀想。

 思いの外、凹んでいる様子だったので、ボクは遥の頭を『よしよし』と撫でて慰めてやった。

撫でられて満足そうにしている彼を見ていると、とても先程の術者と同一人物とは思えない。

何やら、大きめの猫の様だ。

 それにしても腑に落ちないのは、鍵爺の狙いだ。確か、ボクを監視している筈では無かったか?

 それが今では、遥を翻弄する事だけに、重きを措いている様に見える。

何がしたいのか、さっぱり解らない。

「よく気が付いたね、流石《金の神子》!」

 ──そう言うと。

遥は、不意に真顔になって、ボクに向き直った。

「鍵爺は、試しているんだよ。」

「誰を?遥を??」

「うん。爺ちゃんは、鍵島流の奥義の全てを、俺に相承させるつもりなんだ。だからこうして毎日、手を変え品を変え《式》を仕込んじゃ、俺の腕を試している。《式神遣い》の資格試験のつもりなんだよ。」

「これが試験!?鍵爺がそう言ったの?」

「まさか。そんなに親切じゃないよ。」

 遥は、少し不貞腐れた顔をして言った。

「あの人は魔物だからね。おいそれと本心を明かしたりしない。だけど、いつも魂胆は見え見え。そうして、周りが勝手に動いてくれるのを待つんだ。えげつないんだよ、うちの祖父ちゃんは。」

 ──それが本当なら。

鍵爺は、そうとう難儀な年寄りだ。何やら、前途多難の予感がする。