「遥、あれ──!」
「解ってる。大丈夫、俺に任せて。」

任せてって…何をするつもりだろう!?
その真意を質す前に、ボクは、遥の背に庇われていた。

「来るよ。頭を伏せて、薙。」
「あ、頭?」

問い返したが、答えは無かった。
そんな暇が無かったのだ。

 血の色を帯びた蛇の群──それが。
ゆらりと一斉に、鎌首を持たげる。

そして、ボク等に狙いを定めるや、怒涛の如く押し寄せて来たのである。

シャ───────!

 鋭い威嚇の音を上げながら、蛇の大群が襲い掛かる。真っ白な玉砂利の上を、赤い『朽《くち縄』の波が、蛇行しながら迫って来る。

 速い──!

このスピードでは、到底逃げられない。
追い詰められる恐怖に、ボクは思わず遥の背に獅噛《しが》みついた。そこへ──

 シャアァッ!

大きく口を開けて、無数の蛇が飛び掛かって来る。剥き出した牙が、ボク等の間近に迫っていた。

(噛まれる──!?)

 身構えた途端、遥が素早く何事か唱える。

「オン、マリシエイ、ソワカ!」

 ──刹那。
辺り一面が、真っ白な光に包まれた。
眩しい。目を開けていられない。

ボクは咄嗟に手で顔を覆って、突き刺さる光の鏃(ヤジリ)を遣り過ごした。