染まり始めたナナカマドより楓より、なお紅い梅の花。

 …それは、とても奇妙な光景だった。

秋風にそよぐ紅梅の花弁は、宛(サナガ)ら、指先に滲んだ血の滴を彷彿とさせる。

鮮烈で生々しい『紅』だ。
綺麗だけれど、少し怖くもある。

 ふと傍らを見遣(ミヤ)ると──遥は、両手を腰に当てた姿勢のまま、ガクリと項垂れていた。

「そう来たか…」
「遥?どうしたの??」

遥の様子がおかしい。
覗き込もうと近付いたら、突然ガバッと顔を上げて叫んだ。

「糞!ごっつ腹立つ、あの老い耄れ!!」
「…え…?」

 遥の豹変振りに驚いて、ボクは思わず後退った。

──怒っている。何故だか良くは解らないけれど、物凄く怒っている!遥のこんな顔は、それまで見た事がなかった。

深く刻まれた眉間の縦皺。
ピクピクと引き攣る頬。
リスの様に大きな瞳は爛々と燃え盛り、目尻が吊り上がって三角形になっている。

なまじ綺麗な顔立ちをしているだけに、怒りの形相は凄まじく、何やら般若面を彷彿とさせた。

「あったま来た!きっちり降伏(ゴウブク)してやる!! 手加減しねぇからな、クソ爺!」

「え…な、何!?」