「ねぇ、遥。一つだけ訊いて良い?甲本家と鍵島家は、古くから交流があったの??」

 ボクが尋ねると、遥はカクンと首を傾げて、考える様な仕草を見せた。

「うーん…交流と言うか。鍵島家は元々、甲本家の分家なんだ。そこには、行者なのに、何故か陰陽師になっちゃった変わり者の御先祖がいてね。鍵島元成(カギシマモトナリ)って云うんだけれど…その人が、現在の《鍵島流》の祖となったんだ。」

「じゃあ、その人…えーと…元成さんは、行者を辞めて陰陽師になっちゃったの?」

「いや。それがどうも、そういう訳ではないらしいんだよね。」

「どういうこと?」

 疑問を投げ掛けるボクに、遥は、慎重に言葉を選びながら説明した。

 ──平安の昔。

行者の家の三男として生を受けた鍵島元成は、《六星一座》の行力に、陰陽道の術力を取り込もうと考えていた。

そこで。自ら師に就いて修行し、名実共に《陰陽師》となったのである。

 晴れて、陰陽寮に仕える身となった元成だったが…その裏では『式神を遣う行者』として、以前と変わりなく、六星一座でも活躍していた。

この時生まれた『特異な修法』の数々は、今の世にまで伝えられている。

「つまり、元就さんは陰陽寮をスパイしていたの?」

「いや。寧ろ、術者同志の情報交換が目的だった様だね。」

 遥は苦笑しながら言った。

「陰陽道と密教…互いの長所を併せる事で、より高度で強力な『行法』を確立したかったんだろう。つまりギブ・アンド・テイクの関係を築いたんだ。上手く互いを利用しつつ、天皇の御世を法力で護ったのさ。この元成の決断が、現在の六星行者に《式神遣い》という新しい流派を作ったんだ。」

 式神遣いの鍵島家──。
その霊流の夜明けは、一人の行者の意外な転身から始まったのだ。