遥の丁寧な解説を聞いて、思わず『成程』と唸ってしまった。

…つまり。陰陽道は、間口が広いのだ。
あらゆる思想や宗教を貪欲に吸収しながら、時代と共に大きく発展している。

 強かで、抜け目ない呪術──。
それは、『日本人の気質』そのものの様にも思えた。

 そんな感想を率直に伝えると、遥も笑いながら同意してくれた。

「まぁ確かに、柔軟性はあるよね。陰陽道は、自然現象を解明する思想から、呪術へと発展したものだけれど…平安中期からは、いろんな宗教に感化されて、どんどん進化していったんだ。《星占い》みたいな事もしていたんだよ?」

「星占い!? そんな事もするの?」

「うん。密教には『宿曜経(スクヨウキョウ)』と云って、星の動きで物事の吉凶を測る修法(スホウ)があるんだ。陰陽道では《天文道》と呼ばれるものが、それに該当するんだよ。最初は占いに過ぎなかった天文道も、密教の影響を承けてからは、学術的に発展したんだ。」

「へぇ…」

 ──遥は、凄い。
知識も豊富だし、良く研究もしている。
きっと沢山、修行したのだろう。

見掛けに依らず勤勉な一面を知って、ボクは素直に感心してしまった。

 ボクが大学で受けた宗教学の講義は、あくまでも、学術的・歴史学的な側面からアプローチした内容がメインだ。だから、密教の修法に関する詳しい内容までは、解らない。

 だが。遥の話を聞けば、占いと宗教の関連性や解釈の違いを、明確に知る事が出来る。

今まで、解りそうで解らなかった概念が、少しずつ此方に近づいて来てくれているようで…何やら、眼から鱗が落ちた気分だ。

 今日は、朝から目を見張る事ばかり起こる。
中でも、鍵島家の家系に関わる真実などは、一番の驚きと言えるだろう。