「おはよう、薙。」
「おはよ…。遥、今の何?」
「鍵爺の《式》だよ。」
「え──?」

 あれが噂の…。

「全くもう、あの爺さんは──!よくもまぁ毎日毎日、性懲りも無く仕込んでくれるよ。本当に、暇なんだから!!」

 遥は、ふわふわの前髪を乱暴に掻き上げてボヤいた。

「あれが鍵島の──?」
「うん、俺の祖父が仕込んだ式神。」
「え?? 祖父!?」

 思わず素頓狂な声を挙げてしまう。
突き付けられた真実に、ボクは激しく混乱した。

「え?…いや、ちょっと待って。つまり鍵島の大叔父様と遥って──?」

「うん。鍵爺は、俺のオカンの父親なんだ。ゴメンね、変態で。」

 済まなそうに、苦笑して見せる遥。
まさか、彼と鍵島の大叔父が因戚関係にあったとは…。

衝撃的な事実の前に、ボクは言葉を無くしてしまった。それを見た遥が、怪訝に眉根を寄り合わせる。

「あれ?? もしかして知らなかった?」
「…知らなかった…」

 初耳だ、そんな相関図は。
遥とは再従兄弟(マタイトコ)であると教えて貰ってはいたが、鍵島惟之の孫だとは訊いていない。

 ボクが、そう言うと──。
遥は、少しバツが悪そうに頭を掻いて言った。

「鍵島家は、オカンの実家なんだ。鏑木に嫁いで姓が変わったから、薙が解らなくても無理ないよ。因みに爺ちゃんは、甲本家から鍵島家に婿養子に入った人なんだ。」

 ──婿養子。成程、そういう事か。
今日は朝から、驚きの連続だ。お陰で、眠気も吹き飛んだけれど。