遥は、険しい表情で、柱のヤモリを見詰めていた。キリキリと意識を集中させている。
──何か、する気だ。
息を顰めて見守っていると、遥の右手がスイと動いた。人差し指と中指をピンと揃えて突き立て、自分の額より、少し高めの位置に構える。
この指の『形』は、知っていた。
『刀印』と呼ばれる印契(インゲイ)である。
《六星体術》でも屡々、形に入る前の精神集中法として用いられる、破邪の構えだ。
まさか…この小さなヤモリが?
息詰まる緊張の中…。
遥は束の間、眼を閉じて深呼吸をした。それから、狙いを定める様に、刀印の先をヤモリに向けて突き出す。次の瞬間──。
「臨兵闘者、皆陣列在前!」
気迫の籠る声と共に、印を結んだ指で、宙を縦横に斬り裂いた。
ピィィ───────!
鋭い断末魔の声と共に、ヤモリの体が散々に砕ける。ボクは思わず顔を背けた。閉じた瞼の裏側に、凄惨な光景が過る。
肉が飛び散り、骨が砕け──。
千切れた内臓と体液が、其処ら中に巻き散らされる…そんな悪夢の様な光景が、まざまざと脳裡に浮かんだ。
──だが。恐る恐る目を開け振り向くも、ヤモリの死骸らしき物は、回廊の何処にも見当たらない。
ただ…『それ』が張り付いていた付近に、白い紙吹雪がハラハラと舞っていた。
ピカピカに磨かれた床には、砕けた肉片の代わりに、降り積もった真っ白な紙片が、こんもりと小山を為している。
何だろう、これは?
溢れ落ちた一枚を拾おうと手を伸ばすと、何処からか涼やかな風が吹いて来て、あっという間に、それを吹き飛ばしてしまった。
「あ…!?」
紙片の山が、瞬く間に風に拐われる。
気が付けば──辺りは、まるで何事も無かったかの様に、綺麗に片付いていた。
──何か、する気だ。
息を顰めて見守っていると、遥の右手がスイと動いた。人差し指と中指をピンと揃えて突き立て、自分の額より、少し高めの位置に構える。
この指の『形』は、知っていた。
『刀印』と呼ばれる印契(インゲイ)である。
《六星体術》でも屡々、形に入る前の精神集中法として用いられる、破邪の構えだ。
まさか…この小さなヤモリが?
息詰まる緊張の中…。
遥は束の間、眼を閉じて深呼吸をした。それから、狙いを定める様に、刀印の先をヤモリに向けて突き出す。次の瞬間──。
「臨兵闘者、皆陣列在前!」
気迫の籠る声と共に、印を結んだ指で、宙を縦横に斬り裂いた。
ピィィ───────!
鋭い断末魔の声と共に、ヤモリの体が散々に砕ける。ボクは思わず顔を背けた。閉じた瞼の裏側に、凄惨な光景が過る。
肉が飛び散り、骨が砕け──。
千切れた内臓と体液が、其処ら中に巻き散らされる…そんな悪夢の様な光景が、まざまざと脳裡に浮かんだ。
──だが。恐る恐る目を開け振り向くも、ヤモリの死骸らしき物は、回廊の何処にも見当たらない。
ただ…『それ』が張り付いていた付近に、白い紙吹雪がハラハラと舞っていた。
ピカピカに磨かれた床には、砕けた肉片の代わりに、降り積もった真っ白な紙片が、こんもりと小山を為している。
何だろう、これは?
溢れ落ちた一枚を拾おうと手を伸ばすと、何処からか涼やかな風が吹いて来て、あっという間に、それを吹き飛ばしてしまった。
「あ…!?」
紙片の山が、瞬く間に風に拐われる。
気が付けば──辺りは、まるで何事も無かったかの様に、綺麗に片付いていた。