まんじりともせず迎えた翌朝──。
着替えを済ませ自室を出ると、すぐ其処に、鏑木遥の姿があった。

???
何をしているんだろう?
遥は、回廊の柱の前に立って、頻りに或る一点を見上げている。

何やら、真剣な表情だ。
声を掛けても…いいのかな?

 ──と、不意に。
此方を振り向いた遥と、目が合った。
挨拶をしようと口を開けた途端──彼は、貝殻色の唇に、細い人差し指を当てる。

 声を出しちゃいけないのかな?
怪訝に小首を傾げるボクに軽く目配せをして、遥は柱の上部を指差した。

 あ…。
小さなヤモリが張り付いている。
二つの黒い目が、ジッと此方を見ていて…。

可愛い。

 思わず手を伸ばし掛けた──その時。
遥が『動かないで』と云うように、サッと手を挙げボクを制した。

どうしたのだろう?
ピリピリと神経を尖らせ、緊張している。
いつもの、朗らかで快活な彼じゃない。