「篝は、大きな勘違いをしているよ。ボクは未だ、首座でも当主でもない。誰から聞いたのか知らないけれどね。根拠の無い噂に惑わされて、ボクに変な期待なんかしちゃ駄目だよ。」

 自嘲気味にそう言うと、篝は、ふるふると激しく首を横に振り、縋がる様な目で身を乗り出してきた。

「とんでもありません!私、聞きました。今日、烈火さまと拳を交えて、首座さまが圧勝なさったって!それは、とても凄い事です。烈火さまは、一慶さまに次ぐ体術の達人ですもの。その方を負かしてしまうなんて!」

「…あれは偶々(タマタマ)、運が良かったんだよ。」

「いいえ!烈火さまに限って、『偶々』『運が悪くて』負けるなんて有り得ません。本当に、とてもお強い方なんです!」

 確かに…それは充分、伝わったけれど。

「それに私…首座さまが仰る様な、優秀な当主なんかじゃありませんから。」

 篝は、急にシュンと項垂(ウナダ)れてしまった。

「蔡場家は代々、女子が当主に立つ仕来たりなんです。私が当主になれたのは、才能なんかじゃなくて、代々伝わる仕来たりのお陰です。暗に、女の子だったら誰でも良いと言われているみたいで…何だか虚しくて…」

 そう言うと。篝は、今にも泣きそうな顔で下を向いてしまった。

「…私には、才能なんてありません。誇れるものが無いんです。」

篝の声が震えている。
くすんと鼻を啜る音がする。

どうしよう…女の子を泣かせてしまった。