「何を騒いでいるんだ、キミ達は?!ここを何処だと思っている!?」

 突如、凄まじい剣幕で怒鳴られて、ボク等は弾かれた様に振り向いた。病室のドアの前に、白衣を着た若い男性が立っている。

服装からして、この病院の医師に違いないけれど…今の一声には度肝を抜かれた。綺麗な顔をしているだけに、怒ると凄味が増す。

 この人も…かなりの長身だ。
高みから見下ろす眼差しが氷の様に冷たい。

明るい色の髪。
一目で知性が見てとれる端正な顔立ち。
華奢なフレームの眼鏡が良く似合う。

「仲が好いのは、結構だが──」

 医師は、高圧的に言い放った。

「此処は病院なんだ。じゃれるなら他へ行ってくれないか?」

「別にじゃれているわけじゃ… 」

「場所柄を弁(ワキマ)えろと言っているんだよ。此処には、キミの他にも、大勢の入院患者が居る。安静に出来ないなら出ていきなさい。」

「違います、ボクは──!」

 言い返そうとして立ち上がった途端、激しい目眩に、よろけた。

まだ充分に回復していないらしい。
体がフワフワする。

「ナギ!」
「ナギ!?」

 男の声とアニメ声が、不響和音でボクを呼ぶ。

 あぁ…気持ちが悪い…。
体の力が抜けて、グラリと前に傾(カシ)ぐ。
すると、崩れ落ちる一歩手前で、黒髪の男が素早くボクの肩を支えた。

「馬鹿だな、無茶するからだ!」

誰の所為(セイ)だと思っているんだ!?
…そう言い返したかったけれど、言葉が出なかった。

 …吐き気がする…
世界がグルグル回って見える。

結局、二人に支えられながら、ボクはベッドの端にヨロヨロと腰掛けた。すぐに医師が駆け寄って来て、ボクの体を横たえる。

「此方を向いて。」

 言われるがまま、ボクは顔を巡らせた。
その途端、両方の瞼をグイと引き上げられる。

 医師は、ボクの体を丹念に調べた。
抵抗する元気も力も無いボクは、彼の為すがままにされている。

「吐き気がするんだね?」

 訊ねられて、無言で頷いた。
それが、今出来る精一杯だった。