「…はい、あの!」

篝は、きちんと居住まいを糺して言った。

「夜分に申し訳ございません。神子の首座さまが、いよいよ御降臨下さったと耳にして…私、どうしても一目お会いしたくて。」

「いや、あの…。」

『御降臨』って──困ったな。

そんな風に祭り上げられると、気後れしてしまう。そもそも、神子さまだの首座さまだのと云う大仰な尊称自体が、ボクの柄じゃない。

 しかし。興奮を抑えられない様子の篝は、口角泡飛ばす勢いで、熱弁を奮い始めた。

「首座さまのお噂は、予々《かねがね》、耳にしておりました。本日、《火の星》の烈火さまが、逸早く首座さまにお会いになったと聞いて、居ても立ってもいられなくなって…。私と年齢も近い、お若い女性だと知って、一体どんな方だろうと想像しました。とにかく一分一秒でも早く御目に掛かりたくて、仙台から車を飛ばして来たんです。」

「せ、仙台から!?」

「はい。当家の拠点となる地です。」

 蔡場の総本家は、仙台にあるのか。
でも、わざわざ車で──この時間に!?

「そうまでして、ボクに会いに来てくれたの?」

 恐縮しながら尋ねると、篝は、はにかんだ上目遣いでボクを一瞥し…直ぐにポッと顔を赤らめて、俯いてしまった。

「ご迷惑は重々承知しております、でも私…どうしてもどうしても、首座さまのご尊顔を拝したかったんです。」

 いや。『ご尊顔』──と云われる程の、面構えでも無いのだけれど。

「私が想像した通り…やはり首座さまは、とてもお綺麗な方でした。今夜は御目に掛かれて本当に良かった…」

「えーと…それは、どうも…」

 ──篝は、またチラと視線を上げてボクを盗み見た。目が合ったので微笑んでみたら、真っ赤になって、また俯いてしまう。

 …このリアクションは、一体?