急ぎ足で歩いて、応接室へ辿り着く。
少し荒げた息を深呼吸で整えると、ボクは襖越しに声を掛けた。

「失礼します。」

 静かに開け放った襖の向こうには、中学生くらいの小柄な少女が座っている。

彼女が──蔡場篝?

長い黒髪を背中に垂らし、薄桃色の牡丹が描かれた和服を、キチンと着熟《きこな》している。

あどけなさが残る輪郭。
黒目がちな双眸。
キメの整った肌は、抜ける様に白く滑らかだ。

ふっくらとした小さめの唇は、咲き初めたばかりの梅の花を想わせる。

 いかにも育ちの良さそうな、品の良いお嬢さんだ。一本筋の通った、凛とした姿勢が心地好い。

容姿は儚げだけれど、その華奢な体の奥底には、形容し難い強い力を秘めていると解った。

 なんて不思議な子だろう。

はんなり微笑む眼差しは、何処か懐かしくて…何やら初めて会った気がしない。