食事の後──
少し疲れを覚えたボクは、誰にも会わない様に気配を殺して自室に戻った。

 この部屋の窓から見る夕暮れは、これで二度目。東の空には、上がったばかりの月が、辺りを皓々(コウコウ)と照らしている。

 もうすぐ満月。
審議が行われる日の夜は、全(マッ)き円を為したそれが、この暗闇を照らすだろう。

──その月を。ボクは一体、どんな気持ちで眺めているのだろうか?

 窓辺に身を預け、うとうとし始めた頃。

プルル…プルル…プルル…

突然、胸元でモバイルフォンが振動したので、ボクはビクリと跳ね起きた。呼吸を整え電話に出ると、申し訳なさそうな氷見の声が聞こえて来る。

『失礼致します。もう御寝みでしたか?』
「ううん、大丈夫。」

 本当は、転た寝をしていたけれど…。
気付かれない様に、極力声のトーンを揚げる。

『お客様がおみえです』
「お客様…誰?」

『──《木の星》の御当主、蔡場篝(サイバ カガリ)さまです。取り敢《あ》えず、母屋の応接室に御通しさせて頂いたのですが…』

 さいば──かがり?

「あの、氷見?」
『はい。』

「ボク、その人とは多分、初対面だと思うんだけれど…?」

『はい。…お引き取り頂きますか?』

 まさか──。

わざわざ訪ねて来てくれたのに、追い返す様な真似は出来ない。相手は《木の星》の当主だ。尚更、無碍には出来ない。

「会います。直ぐに向かうと伝えて。」

 それだけ答えると、ボクは速やかに身形を調えて、母屋に向かった。