『光に引き寄せられる蟲』だなんて…何だか嫌な表現だ。まるでボクが、故意に皆を誘(オビ)き寄せている様に聞こえる。

 言い知れぬ不快感に、上目遣いで祐介を見遣ると…彼は、人形染みた作り笑いを浮かべて訊ねた。

「もしかして、気に障った?」
「…少し。」

『正直でいいね』と、祐介は言う。

だが、ボクはまだ半信半疑だ。
彼は、目敏くそれを察した様で、不意に意地悪く口角を吊り上げた。

「僕の言葉が信じられない?」
「…うん…」

「皆がキミに惹かれるのは、自然の摂理の様なものだよ。前首座の伸之さんが亡くなって、キミに掛けられていた封印も、随分と弱まって来ている。今まで抑えていた『力』が開放されつつあるんだ。お陰で、色々なものがキミに慕い寄って来る。その自覚は、ある?」

「…なんとなく。」

 烈火や護法達の今日の態度を思い返して、少しだけ納得した。ボクの様な新参者が…まさか、これ程すんなり受け入れられるとは、思ってもみなかったのだ。

 突然現れた『跡継ぎ候補』のボクに──皆、とても親切に接してくれる。

敵視されたり、異端視されたり…四面楚歌に陥る事すら覚悟してやって来ただけに、やや拍子抜けだ。

 祐介は、尚も続ける。

「力が強くなって来た分だけ、キミの体は、急激な環境の変化に附いていけなくなって来ている。…とても危うい状態なんだ。他人から受ける様々な『念』に、キミの魂魄が過敏に反応して、精神的に参っているんだよ。一時的な事とは云え…回復が遅れがちなのは、そうした理由からだ。」

 そう、か…。

何と無く感じていたダルさや眠気は、そういう影響を、知らず知らずの内に受けていたからなのか??

「無理は禁物だよ。」
「…はい。」

 祐介は『いい子だね』と言って、ボクの頭を撫でる。完璧に子供扱いだ。

「さて。もうすぐ夕食だ。その前に、これを飲んでおいて。」

 そう言って手渡されたのは分包の薬。
食前に飲むという事は…

「漢方薬?」

「そうだよ。女性の体には、漢方の方が穏やかで良いだろう。食前には欠かさず飲むように。それから検査結果が出ているから、明日は必ず来院してくれ。」

「うん。」

「良いかい?必ず来るんだよ??朝寝坊しない様に、今夜は早く寝みなさい。」

 祐介は、ちゃんと釘を刺すことも忘れなかった。