「成程、その顔か!」

 祐介が突然、プッと噴き出して言った。

「確かに似ている、『焼き饅頭』に。」

 そう言うと。彼は暫し、眥(マナジリ)に涙を浮かべて大笑した。いつまでもクツクツと止まらない笑いに、ボクは段々と不愉快になる。

「酷いよ、祐介。そんなに笑わなくても良いじゃない!」

「あぁ、ごめん。なかなかに的を射た表現だと思ってね。珍しく、ツボに入ってしまった。カズは、誰彼となくニックネームを付ける癖がある。しかも、かなり良い線をいっているからね。中でも、キミの『焼き饅頭』は傑作中の傑作だ。」

「な…っ!?」

 もう、一慶は──!

余計な事を吹き込んで!!
ボクで笑いを取らないで欲しいな。
名誉毀損で訴えるぞ!

「ほら、またそんな顔をする。」
「あ。」

 …いけない、いけない。
あれ程、直そうと誓ったのに。

『膨れっ面』といい──
『無意識に呼び掛ける癖』といい──
ボクには、直さきゃいけない悪癖が多過ぎる。

 疲労を込めた溜め息を吐けば、祐介の長い指がボクの頬をツンと突いた。

「まぁ、良いじゃない。そんなに怒らないで。そういうところも、キミらしくて可愛いよ?」

「かっ、可愛い──って!」

 動揺のあまり、鯉の様にパクパクと口を動かすボクを見て、祐介はまた一頻り笑った。

「やっぱり苦手なんだね、こういうの。」
「え?」

「キミは、あからさまに褒められるのが苦手な人だね?昨夜、沙耶さんとの遣り取りを見て解ったよ。」

 …確かに、そうだ。手放しで褒められるのは照れ臭いし、苦手かも知れない。

「でも、そろそろ自覚した方がいい。キミは、無意識に人を惹き付ける魅力を持っている。甘い誘いに、おべっか、胡麻擂り…口の巧い連中が、ごまんと近付いてくるだろう。免疫を付けないと騙されるよ?」

「まさか。そんな事あるわけ…」

「あるよ。そんな事も、それ以上の事も、ひっきり無しに続くだろう。」

「…嘘…」

「嘘なんかじゃないさ。本当にそうなるよ。これからは、特にね。」

 膠(ニベ)も無く、祐介は言う。

「今日も早速、《火の星》が捕われた。まるで、光に引き寄せられる蟲の様に。これは前兆だよ。皆、キミに惹かれている。」

 そんな馬鹿な…!
会った事も無いのに!?