気まずさが頂点に達した──その時だった。

「薙さま!」

突然、大声で名前を呼ばれて、ボクの肩がピクリと跳ねた。回廊の向こうから、長身の護法が、血相を変えて此方に駆けて来る。

「あ、氷見…。」
「薙さま、お怪我は!?」

 慌てた様子で、中庭に降りた氷見だったが…ボクを見るなり、怪訝な顔になった。それからチラと、視線を巡らせる。

 其処には、グッタリと縁台に座り込んだ烈火の姿が在った。氷見は忽ち、驚愕の表情を浮かべる。

「これは…火邑の若様…!」
「よぅ、氷見。元気そうだな?」
「お陰さまを持ちまして。」

 丁寧に頭を下げると、氷見は、ゆっくり周囲を見回した。

──その途端。
回廊に残っていた数人の護法達が、気まずそうに視線を外して去って行く。

 氷見は、いっそう訝しげに眉根を寄り合わせて、一慶を振り仰いだ。

「一慶様、これは一体?」

「見ての通りだよ、氷見。火邑の若様の御成りだ。丁重に持て成してやってくれ。」

 一慶の言葉に、真面目な氷見は深々と一礼した。 それから、烈火の体を右肩に担ぎ上げ、静かに邸内へと導く。

「お怪我をなさったのは、烈火様の方でしたか。」

「ばっ…!! 違ぇよ、掠り傷だ!」

 乱暴に言い放ちながらも、大人しく氷見に支えられて、回廊に向かう烈火。護法達を追い払った時とは、まるで態度が違う。あれ程、触るなと喚いていたのに…氷見なら良いのか?

「………??」

 ──何やら、良く解らないけれど、丸く収まった様なので、佳しとしよう。

深く考える事を諦めたボクは、彼等の後ろをトコトコ附いて邸内に戻った。