透かさず馬乗りになると、背面から回した腕を、ガッチリ首に咬ませて絞め上げる。

「…お、前…何を…っ!」

 耳元に、男の苦し気な呻きが聞こえた。

肩越しに此方を振り向いた端正な顔には、明らかな驚愕の色が浮かんでいる。小柄なボクに組み敷かれて、驚いているのだ。

「返せっ!!」

 仰け反る様に首を上向かせながら、ボクは男に迫った。すると彼は苦しい息の下から、ますます苦しい言い訳を始める。

「やめ…ろ、ナギっ…誤解だ!」
「なら、言え──事情って何だ!?」

「…これは危険だ。早急に…回収しないと」
「回収って何だよ!?これはボクの物だ!」

「だから…っ!後で説明するって、言ったろう!? 少しは此方の話も」

「うるさい!!」

 彼の言葉を遮る様に、ボクは捲し立てた。

「言い逃れも大概にしろ!ボクの持ち物を奪っておいて、誰がそんな事を信じるか!」

 一際強く締め上げると、男の手がほんの僅か緩んだ。刹那、素早く御守り袋を取り返して、その場を飛び退く。

「ぐ──!ゴホ、ゴホゴホゴホ!!」

 解放と同時に、男は激しく咳き込んだ。
その隙に、ボクは空かさず遠間を取る。

漸く身を起こした彼は、大きな溜め息を吐きながら、長い前髪を気だるく掻き上げた。

「…やるな、お前。まるで猿山の仔猿だ。」
「何とでも言え。これは渡さない!」