「…んだょ、てめぇら!ボウフラみたいに、わらわら湧いて来やがって? 俺は見世物じゃねぇ、とっとと失せろ!」

 掠れた声がして振り向くと、赤い髪の男がヨロヨロ立ち上がって、回廊のギャラリーを睨(ネ)め付けていた。肩と腹を押さえ、苦痛に顔を歪めている。

 それを見て、一慶が面白そうに笑った。

「いい格好だな、火邑の御当主?」

「一慶!」

 名前を呼ばれて、一慶はヒラヒラと手を振った。

何だ…知り合いだったのか?
戸惑うボクを他所に、二人は忽ち言い争いを始める。

「お前か、こいつ等を集めたのは!?」

「まさか。勝手に集まったんだよ。火邑のバカ当主が、庭先で一線交えているって聞いてな。」

「バカとは何だ、訂正しろ!!」

「こりゃ失礼。甲本家にようこそ、火邑の大バカ当主。悔しかったら上がって来いよ。歩けないなら、手を貸してやるぜ?」

「うっせぇ、このタコ!てめぇの手なんか、死んでも借りねぇ!」

 二人の醜い舌戦を端で見ていて、ふと気付く。

「火邑(ホムラ)の…当主?」

 まじまじと顔を見詰め上げれば、赤い髪の男は不機嫌そうに『ふん!』と鼻を鳴らして、素方を向いてしまった。

 そこへ。
絶妙のタイミングで、一慶が口を挟む。

「紹介するよ、薙。其処のボロ雑巾みたいな男が、火邑烈火(ホムラ レッカ)。《火の星》の当主だ。」

「え!《火の星》の──この人が!?」

 知らなかったとは云え──。
そんな重要人物を、ボクは叩きのめしてしまった。今更だが、これはかなり不味い状況だ。

一体どうすれば─…?

「えっと…ごめんね、大丈夫?」

 身の縮まる想いで、謝ってみる。
すると、烈火は──

「大丈夫な訳あるか!めちゃめちゃ痛てぇよっ、この馬鹿力!」

 …怒っている。そりゃそうだ。
これだけの人の前で恥を掻いたのだから、無理もない。

 ボク等のこんなやり取りを見て、一慶は心底可笑しそうに笑い出した。それから護法達を振り返って、然り気無く指示を出す。

「誰か。手を貸してやれ。」

 すると。直ぐに何人かの護法が、烈火の元に駆け付けた──が。

当の本人は大層おかんむりで、気遣わしげな護法達の手を、悉(コトゴト)く払い除けてしまった。