赤い髪の男は、両の拳を顔の前で交差して、防御の形に構えた。その頬が、微かに引き吊っている。

不動明王拳には、どんな防御も通用しないという事を、彼は良く知っているのだ。

 昔、親父が言っていた。

『明王』の名を持つ闘法の中でも、不動、大威徳(ダイイトク)、降三世夜叉(ゴウサンゼヤシャ)の拳は《三大明王拳》と呼ばれ、最も凄まじい破壊力を持つのだ、と──。

 このまま闘えば、確実に怪我をさせる。
否。もしかしたら、怪我だけじゃ済まないかもしれない。だけど…

「悪いけど、これで終りにさせて貰う。」

「いいぜ、来いよ。受けて立ってやる。」

 大きく息を吸って吐くと──。

ボクは、男に向かって脇目も振らず突進した。地面を蹴って跳躍し、構えた手刀を一気に振り下ろす。

グリュ!

「ぐ…っ!」

 骨を打つ硬い感触に続いて、小さな呻き声が挙がった。防御の構えが解け、組んでいた男の腕が弾かれる。

ボクの手刀は、そのまま彼の肩深く喰い込んだ。同時に、右の拳をその鳩尾に沈める。

「ぐふっ!」

 全てが、スローモーションの様に見えた。口から泡を吐きながら、男の体が、ゆっくり真横に傾いでゆく。

ズザ──ッ!

 …見れば。男は、敷き詰められた玉砂利に、顔を埋める様にして倒れていた。