「へっ!ビビッてんじゃねぇぞ、おらァ!」

 男は直ぐ様、次の攻撃に転じた。
体を半転させながら、次々に蹴りを繰り出す。

 ──速い。

今のところは何とか互角に闘えているけれど、長く続けばスタミナが保たない。防戦一方では、こちらが不利だ。

 反撃のチャンスを窺っていると、男の足がボクの脇腹目がけて蹴り出された。透かさず蹴り返して、それを躱わす。

そのままクルリと反転して廻し蹴りを放つと、男は、その場を飛び退(スサ)って体勢を保った。

「…やるなぁ、チビ助。達者なのは口だけじゃねぇってか?」

「売られた喧嘩は買う方だ。そして、勝てない喧嘩もしない。」

 言い返した途端、クッと笑われた。

「減らねぇ口だぜ、全く。無駄口はタメになんねぇぞ、餓鬼──!」

 高慢に顎を翳して、男は言い放った。
小馬鹿にした様なこの顔…勘に障る。

「マジ面白れぇよ、お前。こりゃ、久々にフルスロットルで闘えそうだ。」

 地面にペッと唾を吐き捨てて、男は構えを変えた。

右手を手刀に。
左手は拳にして、右腰に付ける。

《北天》の構え──。
攻守を瞬時に使い分ける、緩急自在な技だが…使い熟(コナ)すには、かなりの修練を必要とする。

云わば、『六星体術』の最高峰だ。
これを使えるという事は…この男、かなり出来る。

「まさかなぁ。こんな所で、これを使う事になるとは思わなかったぜ。」

 ──そう言うと。
構えた両手が、ゆっくり動きを変えた。
これは…孔雀明王拳!?

北天の型には三つの拳法があるが──その内の、《明王拳》と呼ばれる闘法の一つだ。

 …と、不意に。
男の顔から不敵な笑みが消えた。物凄い闘気が全身から噴き出している。

こいつ、強い。
一見ヤケクソに思える攻撃ばかりだけれど、付け入る隙がない。

 やはり、勝負に出るしかないのか?
躱(カ)わしてばかりでは、決着が着かない。