「い───ってぇな、畜生!」

 下品な叫び声が響き渡る。

「てめ…っこの糞餓鬼!何すんだよっ!?」
「先に仕掛けたのは、そっちだ。」
「…へぇ…?」

男は、のそりと身を起こして言った。

「面白れぇガキだなぁ、お前。」

 仮にも初対面の相手に、『この糞餓鬼』はない。幾ら年上でも失礼だと思う。

…怒って良いだろう、これは。

 無言で睨(ネ)め付けてやると、男は素早く立ち上がって、体を解す様にグルリと左右の肩を回した。

「…ま、いいや。折角だから、お相手して貰おうか。新しい首座さまのお手並み拝見だ。」

そう言って、コキコキと首を鳴らすと…男は、軽く足を開いて腰を落とした。両手を胸に構えて、右足を半歩下げる。

これは《東天》の構え──。
防御より攻撃を目的とする、スピード技中心の形だ。

 ボクは下駄を脱ぎ、裸足になると、西天の構えで対峙した。

「…ふん。《東天》の攻撃には《西天》の防御ってか?セオリー通りで面白くねぇな。」

 男は、何処までも挑発的だった。
不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと両腕を回す。

「型通りじゃ俺は倒せねぇぞ、首座さま!」

 猛る叫びと共に、攻撃が始まる。
素早く繰り出される両手の突き。避ける度に、空を斬る音が耳元に響く。

ブン!
ブン、ブン──ブン!!

 ボクは、右に左に身を沈ませて攻撃を避けた。最後の突きは、左の手刀で叩き落とす。

ザッ!と音を立てて、男の足が玉砂利の上を滑った。

…互いの拳圧が打つかり合った証だ。

「いいね、いいね!チビの癖に、なかなか良い動きするじゃねぇ?…んじゃ、次はこうだっ!」

 崩した態勢を立て直すと、直ぐに鋭い蹴りが飛んで来た。体を反らせてそれを避けた處ろへ、男の手刀が振り下ろされる。

 ブン!

間一髪。頭を傾けて攻撃を躱わした刹那、手刀の先が、ボクの右頬を掠めて行った。

 …ちょっと…危なかった。