彼等は、ボクを知っている。
知っていて、沢山の隠し事をしているのだ。

 怒りを圧し殺して、ボクは訊ねる。

「…バッグの中、全部見た?」
「いや、まさか。」
 
 嘘だ──。

男の答えに不信感を抱いたボクは、点滴のチューブを引き抜いてベッドから飛び降りた。急いでバッグを開けると──そこには。

「無い!」

ボクの大切な『あれ』が無い!
まさか、彼等が!?

振り向き様に睨み付ければ、男は足早に病室を出ようとしている。

「ちょっと待て!」

 ボクは、夢中で男に飛び掛かっていた。
捕まえようと延ばした指先を、あと一歩のところでヒョイと躱(カワ)される。

詰め寄るボクを、頭一つ高い位置から見下ろすと──男は、片手に持った『御守り袋』を高々と差し上げて言った。

「これは渡せない。俺達が預かる。」
「どうして…っ!?」

「込み入った事情があるんだ。話せば長くなる。悪いが、詳しい説明は後だ。時間が無い。」

 そう言ったきり、此方には目もくれずに立ち去ろうとする。

──刹那。
頭に、カッと血が昇るのを感じた。
踵(キビス)を返した冷徹な背中へ、反射的に飛び掛かる。

ダン!と派手な音がして、男は床に倒れた。