首の回りに、子犬用の細い首輪が二本、交差する様に巻かれてあるが──あれは一応、お洒落のつもりなんだろうか? 何やら、見ていて息苦しい。

 それにしても派手な人だ。

この屋敷では、あまりお目に掛れないタイプだが、闖入者にしては、いやに堂々としている。

 一体、何者なのだろう…?
真っ赤な服の若い男は、先程から頻りに辺りを見回している。

 大きく後ろを振り返った瞬間…。
剥き出しの右肩から二の腕に掛けて、黒いタトゥーが刻まれているのが見えた。

龍が剣に巻き付いた様な不思議な図柄…
もう見るからに気合いの入ったパンク青年だ。

 これは…あまり関わり合いにならない方が良いかも知れない。気付かれない様に、そっと踵を返した──その時だった。

 玉砂利が『チャリ…』と音を立てて、不幸にも、彼と目が合ってしまった。

「──んぁ?!」

 男が怪訝に片眉を吊り上げる。
…やはり、挨拶ぐらいして措くべきだろうか?

「こ…こんにちは…」
「────。」

返事が無い。
真一文字に唇を結び、射る様な眼差しをボクに注いでいる。

 …ややあって。
男が、漸く口を開いた。

「お前、誰?」